俺の名はキャブ
バイクに取り付く妖怪だ。
週末、人間界での仕事が一段落ついた俺は、
ニャンニャン師匠の居酒屋「招き猫」へ赴いた。
C
師匠！毎度です、飲みに来ましたよ！
B
おや、キャブじゃないか
C
げ！紅五！
B
何が「げ！」だよぉ。うちの店のツケ、払わないうちに
だるま猫の店に飲みに来るとは！
いい度胸だねぇ！
N
誰がだるま猫じゃ！
紅五は、木の柄と親しい女妖怪だ。
妖怪相手の喫茶店を経営している。
俺はコーヒー代を長い事ツケにし、最近顔をだしていなかった。
まずい・・・
C
師匠！用事を思い出しました！今日は帰ります！
B
まちなよ！キャブ！
俺は慌ててバイクに跨ったが、エンジンがかからない・・・
これは・・・紅五の仕業だ！
紅五は、ニャンニャン師匠にも引けを取らない
強い妖力を持つ。俺のバイクを操るなど朝飯前だ。
俺は諦めて店に戻った。
B
あたしから逃げようなんざ1000年早いんだよぉ。
どうだい、今夜奢ってくれるなら、喫茶店の
ツケはちゃらにしてやってもいいよぉ？
紅五は、酒はそんなにたしまない。
つけを全部払うよりは安上がりだろう。
俺は二つ返事でその条件をのむことにした。
N
なんじゃ、コーヒー代をツケにするとは、
情けないのう。
C
勘弁してください師匠、最近色々と物入りでして・・・
B
まあいいさ、久々に会えたんだし、
今夜はとことん付き合ってもらうからねぇ！
ところで、ニャンだるま。
N
誰がニャンだるまじゃ！
B
あんた、スタバに行ってきたんだってぇ？
私の店にも来ないで、いい度胸だねぇ。
N
にゃんだとぉ！
わしがどこに行こうがわしの勝手じゃ！
たまには甘いものを飲みたくもなるじゃろう！
お前の喫茶店にはブラックコーヒーしかないじゃろが！
C
いわゆるスタバ、ってやつですかい。
俺、行ったことないですねぇ。
紅五は行ったことあるのか？
B
あるもないも、あたしゃこう見えても
昔働いていたことがあるからねぇ。
まだこの街に来る前だけど。
C
じゃああの伝説は本当なのか？
マックブックプロをドヤ顔で広げて、
キーボード打ちまくっている客がいるってのは？
B
バカをお云いでないよｗ
そんな話昔のことさ！
ま、あんたも
人生経験のために行っといたほうがいいねぇ。
N
あそこは初心者には相当手強い魔窟じゃぞｗ
キャブが無傷で生還できるかのうｗ
こいつはヒヨッコの世間知らずじゃからなｗ
C
なにいってんすか師匠！
す、スタバくらい、楽にクリアしてみせますぜ^^;
あー、ティーチャーズロックと、だし巻き卵、串カツ
お願いします。
N
へい！毎度！
C
ところで、酒を飲まない紅五が師匠の店に来るとは、
どういう風の吹き回しだ？
B
猫だるまがくたばっていないか、様子を見に来ただけさ。
あー、手作りのお菓子も渡したかったしねぇ。
N
にゃに！なぜそれを早く言わん！
紅五の作る菓子はうまいからのう！
はようくれ！
B
まぁ慌てなさんな！ここにはないよ！
もうじき届くはずだから、しばし待ちなってぇ。
C
もうじき届く・・・だと？
俺を、嫌な予感と・・・妖気が身を包んだ。
その時！
K
はぁーい！こんばんはぁー！
みんなのアイドル、木の柄様だよぉ！
C
げ！木の柄！
B
菓子の仕上げを木の柄に頼んでおいたのさ。
木の柄の妖力が加わると、ニャンだるま好みの
特別な菓子になるからねぇ。
K
紅五姉さん、今日も上々の仕上がりですよぉ★
B
ご苦労さん！さて、こっちに来て飲みなよ！
今日はキャブの奢りだよぉ！
K
あらぁ！キャブじゃないのぉ！
この間は逃げちゃってぇ！
今夜はかえさないよぉ！
C
まっまて木の柄！
紅五！奢りというのはつまり・・・！
B
そうさ、木の柄の分も払ってもらうよ♪
木の柄は、紅五と違い、相当の酒豪だ。
俺としたことがうかつだった・・・
これでは、紅五の喫茶店のつけを払ったほうが
マシだった！
N
ほっほっ！キャブ！一本取られたな！
今夜はキャブの奢りで酒盛りじゃい！
店は貸し切りにするぞ–★
K
ニャンニャン師匠！そうこなくちゃ！
ほらぁキャブ！あたしの隣においで！
御酌しておくれよぉ★
C
まっまて！話せばわかる！
しっ師匠！師匠まで本気飲みしたら、
店の酒なくなっちゃいますよ！
俺は破産だぁ–！
K
何いってんのさ、
キャブが破産したらぁ、あたしが食わせてやるからさぁ★
C
まっまて！まってくれぇーーー！
こうして、急遽貸し切りとなった
居酒屋 招き猫は恐怖の酒宴会場となり、
俺は骨の髄まで搾り取られた。
ツケはしっかりと払わなければ・・・
さらにツケが倍増することになる。
そんな教訓を心に刻みつけた、後悔の夜だった・・・
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