俺の名はキャブ。妖怪だ。
俺の妖怪の師匠は言わずとしれたニャンニャン師匠。
半人前で路頭に迷っていた俺を、一人前の妖怪に育ててくれた。
そのニャンにゃん師匠の居酒屋「招き猫」に行ったある日、
思わぬ仲間と出会った。
C
師匠!やってますか?
N
おおキャブ!いいところへきたのお。
T
キャブ兄!ひさしぶりだな!
C
お!タンメンか!
タンメンは樹木の妖怪だ。
森や木々を守っている。
ほんの数年だが、ニャンニャン師匠のもとで
一緒に修行を積んだ仲間だ。
その柔らかい物腰から、慕う妖怪は多い。
C
ひさしぶりだなぁ!今も森で樹木を守っているのか?
T
ああ。冬になって暇ができたから山から降りてきたんだ。
師匠が居酒屋やってるって聞いてなぁ。
C
よーし!今日はとことん飲もうじゃないか!
思いがけない出会いに
俺達はハイテンション。
修行時代の話に盛り上がった。
C
そういえば、例の女妖怪とは、その後どうなったんだ?
名前はなんて言ったっけなぁ・・・
T
ああ、柊(ひいらぎ)のことか?
C
そうそう!あの森で出会って、俺はすぐに
旅に出たからなぁ。
タンメンとは親しかっただろ?
T
ああ。
実は、彼女とは、
昔一度会っていたんだ、俺。
C
そうだったのか!
T
まだ俺がヒヨッコの頃だ。
突然、樹の実をプレゼントされてなぁ。
あのときはドギマギしたよ///
C
柊ってことは、あの黒い実か!
俺達妖怪には、妖力増強に効く食べ物だからな。
しかも、彼女の育てる木は特別で、毎年実るわけではない、貴重なものだ。
それをお前にプレゼントってことは・・・
T
ああ、今思えば、な。
しかし、当時の俺は
礼すら言えなかった。
C
その彼女が大人になって、再び現れたってわけか!
俺が旅に出た後はどうなったんだ?
T
俺も、まもなくここを出るんだって話をしたら、
応援してるね、と見送ってくれたよ。
せっかく会えたのに、
子供の頃の、樹の実のお礼が言えなかったんだよなぁ。
C
なに!そうなのか?
その後は会えていないのか?
T
ああ。
旅から戻り、師匠に挨拶に来たとき、
彼女は既にいなかったんだ。
N
柊か。
あいつは、お前たちが去った後しばらくは
わしの森で生活していたが、やがて
いなくなったなぁ。
C
何か、言っていませんでしたか?
N
わしの留守に挨拶に来たようじゃった。
手紙には、行き先のことは書いてなかったのう。
C
そうですか・・・まあ、俺達妖怪の寿命は
長い。
また会えるといいな!
T
ああ、そうだな!
タンメンとの久々の酒盛りは、夜半まで続いた。
若き日の、甘酸っぱい、曇りなき物語。
俺は、久々に「いい酒」に溺れて、上機嫌だった。
そろそろお開き、という時に
居酒屋の扉をコンコン叩く音がした。
T
誰だろう?
C
この話の流れから行けば・・・まさか!
N
柊か!なんというロマンチックな!
おいタンメン、戸を開けてやれ!
T
ああ、はい・・・
タンメンが玄関を開けると、
そこには誰もいなかった。
しかし、足元に・・・
ん? ニワトリ?
B
こけーーーーーーっ!
T
うわあああああああああああ!
N
ど、どうしたタンメン!
T
げ!お、お前は!
B
こけっ!こけっ!こけこけこけこけーーーー!!!
T
うわああ!こら!やめろおおお!
タンメンは、ニワトリに追われながら店を出て、
そのまま戻ってこなかった・・・
C
・・・師匠。なんだったんですかねぇ。
普通、この展開だと、柊が現れて、
「二人仲良く夜の街に消えていった」なんてのを
期待していたんですが・・・
N
・・・あのニワトリ、多分、紅五だな。
C
げ!まじですか!
紅五は、木の柄と仲が良い女妖怪だ。
普段は喫茶店を経営しながら、
得意の菓子作りで生計を立てている。
妖力が強く、ニャンニャン師匠も一目を置くほどだ。
N
紅五はニワトリに変身するのが得意だからな。
そして、タンメンとは少々腐れ縁があってだな。
C
・・・そうだったんですか。
タンメンも大変だなぁw
N
おおかた、山から降りてきたのに
紅五の喫茶店に行かずに直接ここへ来たのだろう。
だから紅五が怒ったのじゃな、きっとw
夜の街にこだまするコケコッコーと
タンメンの悲鳴を聞きながら、
師匠は店じまいしたのだった・・・
タンメン、無事を祈る!w
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