4 曇りなき思い出

俺の名はキャブ。妖怪だ。
俺の妖怪の師匠は言わずとしれたニャンニャン師匠。
半人前で路頭に迷っていた俺を、一人前の妖怪に育ててくれた。
そのニャンにゃん師匠の居酒屋「招き猫」に行ったある日、
思わぬ仲間と出会った。

C
師匠!やってますか?

N
おおキャブ!いいところへきたのお。

E
キャブ兄!ひさしぶりだな!

C
お!エントか!

エントは樹木の妖怪だ。
森や木々を守っている。
ほんの数年だが、ニャンニャン師匠のもとで
一緒に修行を積んだ仲間だ。
その柔らかい物腰から、慕う妖怪は多い。
普段は、木工作品の制作や販売、
ギターや‐ベースの演奏を楽しんでいる。

C
ひさしぶりだなぁ!今も森で樹木を守っているのか?

E
ああ。

冬になって暇ができたから、
山から降りてきたんだ。
師匠が居酒屋やってるって聞いてなぁ。

C
よーし!今日はとことん飲もうじゃないか!

思いがけない出会いに
俺達はハイテンション。
修行時代の話に盛り上がった。

C
そういえば、例の女妖怪とは、その後どうなったんだ?
名前はなんて言ったっけなぁ・・・

E
ああ、柊(ひいらぎ)のことか?

C
そうそう!
ニャン師匠の山で出会って、俺はすぐに
旅に出たからなぁ。
エントとは親しかっただろ?

E
ああ。
実は、彼女とは、
幼馴染(おさななじみ)なんだ。

C
そうだったのか!

E
まだ俺がヒヨッコの頃だ。
突然、樹の実をプレゼントされてなぁ。
あのときはドギマギしたよ///

C
柊ってことは、あの黒い実か!
俺達妖怪には、妖力増強に効く食べ物だからな。
しかも、彼女の育てる木は特別で、毎年実るわけではない、貴重なものだ。
それをお前にプレゼントってことは・・・

E
ああ、今思えば、な。
しかし、当時の俺は
礼すら言えなかった。

C
ニャン師匠の森であった時は、久々の再開だったということか!
俺が旅に出た後はどうなったんだ?

E
俺も、まもなくここを出るんだって話をしたら、
応援してるね、と見送ってくれたよ。
せっかく会えたのに、
子供の頃の、樹の実のお礼が言えなかったんだよなぁ。

C
そうなのか・・・
その後は会えていないのか?

E
ああ。
旅から戻り、師匠に挨拶に来たとき、
彼女は既にいなかったんだ。

N
柊か。
あいつは、お前たちが去った後しばらくは
わしの山で生活していたが、やがて
いなくなったなぁ。

C
何か、言っていませんでしたか?

N
わしの留守に挨拶に来たようじゃった。
手紙には、行き先のことは書いてなかったのう。

C
そうですか・・・まあ、俺達妖怪の寿命は
長い。
また会えるといいな!

E
・・・まあ、そうだなぁ。
どこかで偶然会えたら、
今度こそは、しっかりと礼を伝えたいなぁ。

エントとの久々の酒盛りは、夜半まで続いた。
若き日の、甘酸っぱい、曇りなき物語。
俺は、久々に「いい酒」に溺れて、
上機嫌だった。
そろそろお開き、という時。

N
ん?この妖気は・・・

C
師匠?どうかしましたか?

N
おいエント、表を見てくれ。
誰か来たようじゃ。

T
わかりました。

エントが居酒屋の玄関を開けると、
そこにはだれの姿もなかった。
しかし、足元を見ると・・・

E
これは!・・・柊(ひいらぎ)の実!

C
エント、どうした?誰かいたのか?

E
あ!・・・いや、誰もいないなぁ。

エントはそっと、ポケットに
柊の実をしまいこんだ。

E
師匠!キャブ!今夜はこれで失礼するよ!

C
ああ!またな!

エントは、慌てるように店を後にした。

N
・・・さて、店じまいするか。
キャブも早く帰って寝るのじゃぞ。

C
そうですねぇ。では、失礼します、師匠。

師匠は、妖力が強いお方。
居酒屋の表に来たのが誰か・・・
ご存知だったのだろう。
俺はそんなことを知る由もなく、
ほろ酔い気分で帰宅した。

エントは、曇りなき思い出の相手に、
出会えたのだろうか・・・

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